日本食は世界で人気です。農林水産省によると、世界の日本食レストランは2006年の2万4千店から2013年には5万5千店にまで増え、中国・台湾・フランス・イタリアなどの国では外国料理の中で日本食が最も好まれているという調査結果もあります。また、日本政府観光局の調査では、外国人観光客が訪日前に期待することとして、食事が一位になっており[1]、日本の食は訪日インバウンドの最も重要なコンテンツと言えるでしょう。
しかし、日本にいるとあまり意識しませんが、外国には道徳的な観点や健康上の理由、アレルギー、食べられないものがある人が沢山います。外国の食に関する文化やバックグラウンドを理解し、配慮することは訪日旅行で日本を盛り上げていこうとする我々にとって、とても重要なことです。
今回のソリッドインテリジェンスのブログでは、このような食に関する話題の中でも、ベジタリアンにフォーカスを当て、ソーシャルメディアの投稿からその問題について調べてみました。
ベジタリアンとは
ベジタリアンとは、広義では肉や魚を食べない菜食主義の人たちを指します。ですが、ひとえにベジタリアンといえども食べられるものは人によって変わり、別の呼び方で分類されることもあります。
例えば、
- ぺスクタリアン: 肉は食べないが魚は食べる。オーガニック志向
- ラクトベジタリアン: 野菜と乳製品は食べるが卵は食べない
- オボ・ベジタリアン: 野菜と卵は食べるが乳製品は食べない
- ビーガン: 完全菜食主義で食事以外にも、動物性のものは極力生活に取り入れない
など様々なタイプのベジタリアンがいます。国別にみると、アメリカでは800万人[2]、イギリスで300万人[3]、インドでは人口の40%[4]の3億人以上がベジタリアンであると言われています。また、日本に来る観光客が多い中国は5,000万人[5]、台湾でも230万人がベジタリアンフードを食べている[6]と言われています。欧米に多いイメージのベジタリアンですが、アジアでも、ベジタリアンの選択肢があればそれを食べる人も多くいます。日本についても人口の4.7%の人がベジタリアンフードを食べている[7]という統計もあります。
日本でベジタリアンは難しい!?
世界ではベジタリアンやビーガンも多く、その考えも広く浸透して受け入れられている国が多くあります。そういった国々では、レストランや普通のスーパーでもベジタリアン向けのメニューや食材が提供されています。
一方、日本の状況はどうなっているでしょうか。ソーシャルメディアであるTwitterの過去6か月分の投稿データを収集し、日本を訪れるベジタリアンやビーガンの評価や本音を探ってみることにします。
日本食についての評価
まずは、日本食全体についての評価を見てみましょう。
上のグラフは2016年12月から2017年4月までのTwitterの投稿のうち、キーワードとして“日本食”を含む英語の投稿について、内容がポジティブなものとネガティブなものの比率を表しています(よく「ポジネガ比率」や「ポジネガ分析」とも呼ばれます)。86%もの投稿がポジティブで、ネガティブな投稿の比率は14%にとどまっており、日本食の評価の高さがデータからも確認できます。
ベジタリアン・ビーガンの評価
次に、上記の投稿のうち、“ベジタリアン”に関連するものに限定した場合のポジネガ比率を見てみましょう。
ネガティブの比率が16ポイント増え、30%となっています。日本食全体としてはポジティブな評価ではあるもの、ベジタリアンに関しては比較的ネガティブな評価をされていることが数字に表れています。
それでは、実際に日本でのベジタリアンについて、どのような投稿がされているのかをご紹介したいと思います。
ベジタリアンの実際の投稿サンプル
1.「日本でビーガンが外食するのはほとんど不可能だね。ベジタリアンでいるだけでも大変だ」
Its nigh on impossible to eat out as a vegan in Japan. Even being vegetarian is hard.
— Take that,onco! 癌 (@TakeThatOnco) 2016年12月28日
2.「日本でベジタリアンでいることも大変。だからみんな、私はエビやイカ、スープに鶏がらが使われているものを食べたよ。批判したいならどうぞ。」
Also being vegetarian is hard in Japan so guys I ate shrimp and squid and had chicken broth so go ahead and judge me
— disgusted (@thewolfhuntress) 2017年3月18日
3.「日本の非人道的な魚市場は自分がぺスクタリアンであることがひどいって気持ちになる。でも普通に、日本でベジタリアンでいるのはものすごく大変だから。」(日本在住アメリカ人)
4.「でもビーガンでいることがどれだけ大変かって書いてた投稿があったよ。日本はどれだけ(ビーガンについて)理解してないかって」(アメリカ人)
これらはソーシャルメディア上の投稿のほんの一部の例ですが、日本でビーガンはもちろん、ベジタリアンであることは難しいという声が多数上がっています。日本食には元々出汁などに魚が使ってあったり、肉のエキスや油などが料理に含まれていたりすることが多く、知らず知らずのうちに食べてしまっていることもあるでしょう。
欧米では倫理観や環境のためにビーガンやベジタリアンになる人が多く、食べられるけど食べないという選択肢を選び信念を持っている人達です。そんな彼らを理解せず、「日本はベジタリアンには優しくない国」というイメージがついてしまうのは外国人の受け入れを推進したい日本にとって良いことではありません。
実際に、日本でビーガン、ベジタリアンでいることが困難なので、日本にいる時は魚は食べる、ビーガンだけど日本では卵や乳製品は取る、日本にいる間はベジタリアンを辞めるという外国人もいます。ただこれらは全て仕方なくの選択であって、彼らの信念に反し、自身に対して罪悪感をもつことにもなってしまいます。
ソーシャルメディアで情報共有
ソーシャルメディアには日本でベジタリアンでいることの難しさやベジタリアンやビーガンの食事ができるかという懸念の声も多数上がっています。その一方で、ベジタリアンやビーガンのための情報やアドバイスについてもソーシャルメディアで求められているのもわかります。実際に、日本在住あるいは訪日経験のあるベジタリアンやビーガンの人のブログも多数存在し、日本に来るベジタリアン、ビーガンの人々をサポートやアドバイスをしている事例がありますので、紹介します。
例1. 日本在住のビーガンにソーシャルメディアで質問
-Tony Hale
@SharlaInJapan 私は30年以上もビーガンだけど日本に行きたいんだ。ビーガンには(日本にいるのは)どれだけ大変かな?
-Sharla
大きな都市にいるならけっこうビーガンのレストランがありますよ。他のレストランより高いけど。
-Tony Hale
返信ありがとう!それじゃ!
例2. 日本在住のビーガンがソーシャルメディアで自身のブログを紹介
GhostMilkさん、@peach_parfum さん、@homovillain さんへ(返信)
もし興味があれば私が日本でビーガンでいる経験のすべてを書いてますよ。
(上のツイートの中で引用されている過去のツイート)
「日本でビーガンでいるためのアドバイスのすべて。大変っていう人がいるのは知ってるけど、これが役立つはずですよ。(ブログのアドレス)」
まとめ
このように、ベジタリアン、ビーガンの人々は日本に行くことに不安を抱えており、ソーシャルメディアを通して情報を共有していることがわかります。訪日外国人が増えつつある中、東京などの都心部では少しずつ、ベジタリアンやビーガン向けのレストランが増えてきていますが、地方に行くとまだまだ対応できていないのが現状です。全国のホテルや飲食店、あるいは小売店がこうした外国人のニーズをより深く理解し、ベジタリアンやビーガンの人たちに食の選択肢を提供することがますます重要になってくるでしょう。
今回はベジタリアンについて見てみましたが、ベジタリアンに限らずソーシャルメディアには外国人の生の声が溢れています。その生の声に耳を傾けることによって、ニーズの把握やこれからの対策の方向性を決めていく材料にもなります。私どもソリッドインテリジェンスでは世界各国のソーシャルメディアを利用しての調査・施策のお手伝いをさせていただいております。ぜひお気軽にご相談ください。
[1] 日本食・食文化の海外普及について | 農林水産省(PDF)
[2] HOW MANY ADULTS IN THE U.S ARE VEGETARIAN AND VEGAN
[3] Vegetarian UK
[4] “Veg” Gujarat has 40% non-vegetarians
[5] Vegan lunch: Going meatless in Beijing
[6] Vegetarian entrepreneur succeeds with Web site, guidebook
[7] 日本と世界のヴィーガン率・ベジタリアン率
参考:ビーガン 菜食主義 | Veganic Japan