今回、ソリッドインテリジェンスのサービスをご利用いただいた、関東一円の観光戦略の推進、関連団体の支援等をおこなっている関東観光広域連携事業推進協議会(以下、関東広域DMO)様に、インタビューを実施しました。その内容をご紹介させていただきます。
海外旅行ができないなかで、旅行者は何を話題にしているのか
Q. 関東広域DMOに関する現状の課題と、ソーシャルリスニング事業を実施した経緯について教えて下さい
鈴木事務局次長:
コロナが流行する以前は、観光動向調査といえば位置情報の取得や公共交通機関の利用調査などがメインでした。しかし、コロナの影響で訪日外国人観光客の足が途絶え、これまでの動向調査ができなくなったという課題に直面しておりましたが、そのタイミングでソーシャルリスニングの存在を知りました。
ソーシャルリスニングという手法ですと、最新の都県に関する話題が取得できるとともに、コロナ前の実際の観光客の声も収集・比較ができます。旅行ができない状況の中で、どういった話題が投稿されているかを知ることは、往来再開後に都県にとって非常に有益な調査になるのではないかとの判断に至りました。また、単に数字だけでなくテキスト情報を拾い上げることのできる調査がめずらしく、高い価値を感じました。コロナ禍でも実施できる数少ない調査方法で、最も費用対効果の大きい選択肢のひとつとしてソーシャルリスニング事業を実施しました。
国別の傾向の違いがデータによりはっきり確認できたことは収穫
Q. ソーシャルリスニング分析調査の結果をご覧になり、意外だった、もしくは想定以上だったという成果はありましたか
鈴木事務局次長:
以前より、各都県の観光コンテンツ情報は知っていましたが、前任で旅行業界にいた身としましても、例えば埼玉県にある川越氷川神社の画像があれほどSNS上で拡散されていたとは知らなかったです。新潟県の「わらアートまつり」の画像が盛り上がった情報として検出されたという結果も意外で、観光客誘致に活用できるとは思っていませんでした。
コンテンツ毎の県別話題量順位の結果からは、長野県が観光地としてあんなにポテンシャルが高いとは思いませんでした。長野県は広いので、北部・中央・南部で分けて分析した際には傾向の違いも出てきそうで、興味をそそられます。また、関東広域の中では、鎌倉、江の島、箱根などを有する神奈川県が観光地として人気が高いというイメージはありました。話題量順位としてもそのような結果となり、感覚ではなく数字として表れたことで事実確認ができたため、今後のわかりやすい説得材料になります。
アメリカ、イギリス、オーストラリア、台湾を対象に調査を実施した結果、国別ランキングで各コンテンツの話題量に傾向の違いが表れたので、海外に事務局をもつ自治体にとってはさらに活用できるデータになったと思います。特に台湾に関しては、明確に傾向の違いが見えましたので、仮説をデータで証明できたことも収穫だと思っています。
Q. 本レポートにはテーマ毎の県別話題量や反応の多かった投稿例、センチメント分析などの項目がありますが、特に印象深かった分析項目や内容は何でしょうか
鈴木事務局次長:
反応の多かった投稿例や時系列グラフから、先述の「わらアートまつり」などこれまで知らなかった注目度の高い話題の発掘につながりました。SNS上で一度盛り上がった話題は繰り返し拡散されることもあるため、今後のプロモーションにうまく活用していきたいと思います。新潟県佐渡市に関しては、地産地消を意識した観光コンテンツの話題がピックアップされていたことから、訪日外国人観光客のニーズに対してSDGsの観点を取り入れることも重要であると改めて感じました。また、伝統工芸品の話題量調査で、震災被害を受けた福島県の大堀相馬焼に関する話題が拡散されたのも印象的でした。
田中事務局長:
ネガティブな投稿例は非常に参考になりました。旅行者が実際に不満に感じていることって、普段のアンケートではあまり出てこないと思います。外国人観光客は文化の違いなどから日本在住者とは異なる常識や視点を持っているので、感じたことを文章で見られることに大きな価値を感じます。
日本の伝統工芸品に関するSNSの投稿は非常に少ない
Q. 分析結果をご覧になり、仮説が立証されたことや、逆に課題が可視化された点はありますか
鈴木事務局次長:
伝統工芸品の話題量は圧倒的に少なかったです。拡散された福島県の大堀相馬焼にしても、工芸品そのものというよりは、震災の影響で途絶えていた生産が再開するといった話題性が欧米豪で取り上げられたという結果になりました。今回ソーシャルメディア上では伝統工芸品そのものの本当の意味での知名度や訴求力が評価されて拡散されたわけではないと感じています。一方で、成田空港など外国人観光客が旅の最後に出会うお土産屋さんでは、伝統工芸品といった日本的なものが好まれて購入されたりしています。そのような購入に関する投稿が少ないという課題が今回浮き彫りになったので、伝統工芸品の歴史的背景や技術などに関するストーリーを合わせて紹介することで、SNSを利用して地域の認知度を向上させるための施策につながるのではないかと考えております。
また、サステナブルツーリズムという意味では、今回新幹線に関する話題量は多かったですが、地方のローカル列車を取り上げた話題も見られました。ローカル列車と観光地を結びつけて情報発信することで大きな魅力につながると思いますし、モニターツアーやモデルコースを造成する際にも活用できるのではないかと期待しています。
一方的な情報発信だけでなく、地域と意見交換する場が重要
Q. 本事業の総合的な成果と感想をお聞かせください
鈴木事務局次長:
今回初めて、中間報告、最終報告だけでなく、希望する県には個別相談会まで実施していただいて、ここまで手厚くフォローしていただけた事業者は他にはいなかったので感謝しております。各県がプロモーションを企画していくなかで、今回のレポートをさまざまな事業に活用していきたいと言葉にしていただけたのは成果として大きいですし、関東広域DMOとしても事業成果のPRポイントになりますので、本事業の価値が上がったのではないかと思います。
田中事務局長:
県単位で個別相談会を実施することで、本音が出てきますよね。都県が集まるとなかなか発言しづらい雰囲気や時間的な制約が出てきますが、個別ですと「実はこれが聞きたかった」という質問も活発になされます。今後も継続することで調査事業として深みが出てきますし、調査結果が点から線となりますので、成果にストーリーが生まれてくるのではないかと考えています。
鈴木事務局次長:
また、県単位で調査事業を実施する場合は自県のデータしか収集しませんが、本事業では同じテーマを他県と比較することができたので、関東広域DMOとして大きな成果となりました。調査対象国や範囲を広げた場合は、さらに傾向の違いが出てくるのではないかと思います。数値に現れた結果ですので、各県が客観的に自県の強みや弱みを把握することで、今後の施策にうまく活かしていくことを期待しています。
SNSデータを活用したEBPMを今後も推進していきたい
Q. 本事業の調査結果を、関東広域DMOのお立場からどのような施策に反映していくかなど、ご予定がありましたらお聞かせください
鈴木事務局長:
欧州富裕層向けの滞在コンテンツを造成していくなかで、事前調査に役立てたいと考えております。
田中事務局長:
SNS上で情報発信をしていくなかで、拡散されやすい内容や、もしくはネガティブにとらえられやすい内容など、検討材料としても活用していきたいです。サステナブルツーリズムを訴求するというテーマは今年度と変わりませんが、次年度の採択事業者に今回の調査結果を共有することで、より良いコンテンツを具体的に検討できるのではないかと思います。SNSデータは観光庁の実施する消費動向調査などからも外国人観光客がもっとも参考にしている情報だという事がわかっています。そういったデータをエビデンスとして活用して施策を作っていくことが重要だと感じています。
また、通常であれば行政単位で行動することが多いですが、周遊ルートを策定するうえでは、行政を超えた連携が必要だと感じております。例えば、関東に住んでいる方は一度の旅行で草津温泉と軽井沢を結びつけるという感覚はあまりないですよね。ところが今回の調査結果では、草津にいった訪日外国人観光客は軽井沢にも足を運ぶことが多いといった傾向がでてきました。日本人にはめったにない感覚ですが、海外の方はそもそも日本国内での動きが違うという気づきになりましたし、感覚的な意見ではなく数値的な結果が出たことで説得力が違います。そのため、行政同士の連携がとれやすくなったのではないかと大いに期待しています。
Q. 今後、関東広域の観光を盛り上げていくにあたっての目標や、重視していることがあればお聞かせください
小堀専務理事:
観光客をいかに呼び込むかかということは大事ですが、今後は消費額の増額や、東京周辺の広域をどれだけ周遊していただくかということにも着目しています。それを目指すうえでは、各県共通のストーリーを見出すなどの努力が必要です。しかしながら、互いに協力して観光客を誘致するといった文化が東京周辺にはあまりないというのが現状です。また、県をまたがっての調査事業となりますと、予算的にどうしても限界が出てきます。調査事業のそのような性格に加え、コロナ禍で観光客が来ていない状況のなかでは、以前までの調査手法では実施が難しいものがありました。ですが、量的な比較と質的な比較が同時にできるソーシャルリスニングという手法を用いて観光庁の調査事業として実施したことにより、非常に有用性の高い成果となりました。
数字を扱う調査はこれまでにも実施してきましたが、テキスト情報を調べてまとめ上げるというのは、本当に大変な労力だと思います。だからこそ価値があるのだと改めて思いますし、毎年継続していくことでさらなる価値を見出していけるものだと期待しております。
★この度は取材にご協力いただき、誠にありがとうございました★